认知语言学视角下日语拟声拟态词的语义分析研究(日文版)
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陳帥さんの博士論文が、このような形で刊行されることを心より嬉しく思う。

陳さんは、宮城教育大学大学院で修士課程を修了する直前に、東日本大震災で被災している。日本で研究を続けることを断念するという選択肢もあったであろうに、名古屋大学大学院の博士後期課程に進学し、粘り強く研究に取り組んだ。その成果が博士論文として実を結び、今日の出版に至ったとことを考えると、殊の外喜びが大きい。

本書は、認知言語学の意味観に立ち、現代日本語のオノマトペ5語「こってり」「あっさり」「しっとり」「さっぱり」「すっきり」を対象として、実際の使用例をもとに意味分析を行ない、現代日本語におけるオノマトペの意味拡張を考察したものである。

日本語はオノマトペが豊富な言語とされ、日本語の語彙におけるオノマトペの重要性の高さは広く認識されている。その一方、オノマトペは、形態と意味の間に有契性があることから、一般語彙とは異なる特殊な語群とされてきた。また、オノマトペは五感に根ざすものであるため、その意味の転用は主に共感覚比喩の枠組みにおいて研究されてきた。しかしながら、本書の考察対象である5語は、感覚を表すだけではなく、感情や性格といった抽象的なことを表す語としても使用される。また、現行の辞典類には記述されていないような用法での使用も見られる。本書は、日本語の語彙の中で重要な位置を占めながら、特殊な語群とされてきたオノマトペを対象として多義語分析を行い、非慣習的な用法も含めた意味のネットワークを記述することを試みたものである。各語の意味拡張が比喩を基盤としていることを明らかにするとともに、感覚間の転用を共感覚比喩の観点からも捉え直し、共感覚比喩の基盤と方向性についても論じている。

本書は、「こってり」「あっさり」「しっとり」「さっぱり」「すっきり」を対象とし、それぞれ多義語としての意味を分析·記述し、意味のネットワークを明らかにしている。その意味拡張は、比喩の観点からは、メタファーとメトニミーといった比喩を基盤として成立していると説明されるが、感覚間の転用については、共感覚、つまり、複数の感覚による同時体験が転用の強固な基盤であるとしている。さらに、われわれの感覚器官の機能の制約から身体的な同時体験の可否及び一般性が決まり、それが感覚間の転用に制約を与えていることを述べている。一方で、共感覚比喩の基盤は共感覚だけではなく、共感覚比喩の柔軟性はわれわれの「類似性を見出す」という柔軟な認知能力が関与していると結論づけている。

従来のオノマトペの研究では、意味については音象徴的な意味や感覚間の転用の方向性のみに焦点が当てられ、本書のように個々の語の意味が詳細に分析されていない。本書は、日本語母語話者の感覚に根付き、意味の分析·記述が容易でない言語表現であるオノマトペを対象として、実例を丁寧に観察し、非慣習的な用法も取り込んだ形でその意味を記述しているという点で、現代日本語のオノマトペの意味研究として貢献している。また、多義語の意味の記述にあたって非慣習的な用法を意味のネットワークに明確に位置づけている点、共感覚比喩の再考を通してわれわれの言語使用がわれわれの身体的経験を基盤にしていることを検証し、感覚間の転用の制約と柔軟性を論じている点でも注目すべきである。

本書で論じているオノマトペの意味拡張は、実例を丹念に観察することにより導き出されたものであり、実証されているわけではない。別の分析者が、別のアプローチで論じれば、別の結果が導き出される可能性もある。その意味で、本書の主張に批判がないわけではない。しかし、そのような批判は、オノマトペの意味拡張の一端を明らかにしたという本書の価値を否定するものではない。

陳帥さんが今後より広い範囲のオノマトペの意味研究に取り組むことを期待し、その研究がさらに発展することを願う。

名古屋大学大学院准教授

鷲見 幸美